私たち人間の体はとても頑固で、たとえ自分の命をつなぐために必要なものであっても、自分以外の細胞や人工物が体内に入った場合には激しい拒絶反応をおこし、異物を排除しようとします。
こういった拒絶反応は私たちの体の免疫系統によってもたらされる自己防衛の能力なのですが、なぜインプラントで使われる人工歯根は顎の骨に埋めこまれたまま排除されずに天然の歯に近い状態で長く使うことができるのでしょうか?
今回はインプラントに使われる素材、チタンが骨に結合するメカニズムなどについてご紹介します。
インプラントの歴史はチタンが変えた!
そもそも「失われた歯の代わりに人工の歯を使う」という、インプラントのもとになった歯科治療法は紀元前から行われてきました。
古代では人工歯に象牙や宝石などの素材を治療に用いてきましたが、これらの素材は人体の拒絶反応のために骨と結合することはなく、埋め込んでもすぐに脱落してしまい、見た目はともかく、実用的な歯としては使い物になりませんでした。
その後は実用的な人工歯の素材として金や鉄、ステンレスやアルミニウムなどの金属類が使われるようになりましたが、金属は口腔内の体液でイオン化して溶け出し、金属アレルギーを引き起こすために、インプラント技術は一向に進歩しませんでした。
しかし1960年代になってチタン製のインプラントが登場したことで、インプラント技術は飛躍的に進歩します。
現在、私たちが拒絶反応によりインプラントを脱落させることなく、安全にそして長期間人工歯が使えるようになったのは、ひとえにチタンという素材のおかげなのです。
チタンの特徴と骨との不思議な関係
チタンは次の特徴を持つ金属で、医療用から工業用まで、幅広く使われている素材です。
●耐食性が強い
●軽く加工がしやすい
●生体親和性が高い
●骨と結合する
チタンは他の金属にはない生体親和性を持ち、酸素と結びつくことで表面に強固な不動態皮膜を瞬時に形成するので、人体にとって危険な金属アレルギーを起こすことがなく、インプラントとして骨に埋め込んでも害はありません。
骨に埋め込んだチタンは異物として認識されず、あたかも折れた骨が再生して結合をするようにチタンに新しくできた骨が張り付き成長し、インプラントは骨としっかり結合していくのです。
このようなチタンと骨の結合は、最近の研究でチタンの表面が微少に粗い方がより結合しやすいことがわかっていて、今ではより強力な結合力のあるインプラントが開発され、インプラント成功例は全体の約97%と、高い治療効果が出るようになっています。
古来より行われ、最近の科学技術によって高い成功率を誇るインプラントを活用して、失われた歯を取り戻して、おいしく食事をいただきましょう。