他院でインプラント治療を断られた方へ
インプラント治療は、天然歯のような見た目と機能を取り戻す治療で、主に、歯を根っこから失った場合やグラグラして抜歯するしかないような場合に行います。しかし歯を失うことになった原因によっては、治療のハードルが高くなるケースがあり、そのような難症例と言われるケースの場合、対応できない医院では治療を断られることもあります。ただし、難症例であってもそれに対応した処置方法が多く確立されており、適切な処置の技術や経験を持つ歯科医院であれば問題なくインプラント治療を行えます。
インプラント治療を断られるケース
インプラント治療を行うことが困難なケースとしては主に、埋入位置の骨が埋入に適した厚みや形状ではない場合と、重い歯周病から歯を失ったケースです。どちらも経験に基づいた適切な処置を行わないと、インプラント治療だけではなく、残った歯に対する影響も考えられます。
骨が足りないケース
難症例と呼ばれるインプラント治療が困難なケースの多くは骨に関係しています。インプラント治療では、しっかり噛める人工の歯を作るために、歯の根の代わりとなるインプラントを顎の骨に対して柱のように立てます。インプラント自体は主にチタン製で非常に頑丈な柱となる歯科素材なのですが、どんなに頑丈な柱でも、周りに支えるに足りる土台がなければ安定することができません。まずは土台となる骨の量や形状、密度などがインプラントをしっかり支えられる状態になっていない場合、インプラントを支えられる骨を準備する必要があります。
病気や生活習慣が原因のケース
全身疾患の場合
インプラント治療は歯科治療の中でも特に手術を伴う治療です。糖尿病や高血圧などの全身疾患や持病をお持ちの方が治療を受けられる場合は、病状によっては主治医の判断も仰ぎながら慎重に行う必要があります。
重度歯周病の場合
インプラント治療患者様が、歯を失う原因で最も多いとされているのが歯周病です。歯周病は、歯茎や歯を支える骨など歯の周りの歯周組織に対して細菌が影響を及ぼす疾患です。歯と歯茎の隙間の歯磨きが行き届かないとプラーク(歯垢)がたまり、徐々に細菌が繁殖していきます。はじめの内は歯肉の腫れや出血などが見られますが、進行すると細菌がどんどん歯の根の方へ浸食していき、最終的には骨や歯肉をボロボロにしてしまい歯が抜け落ちるまでに至ります。歯周病が進行したお口の場合、インプラント治療を行ったとしても、抜け落ちた歯のように、インプラントが定着せず早期に抜け落ちるなどのリスクが非常に高くなります。
骨が足りないため断られた方へ
骨が足りない場合には、骨を補うための処置というものがいくつかあります。骨造成などの増骨処置と呼ばれる処置を行うことで、インプラント治療が可能となるケースがございます。そもそも骨は刺激を受けなくなると時間の経過とともに徐々に減っていきます。歯を支える骨は通常、食事中の咀嚼などで刺激を受けていますが、歯が抜けてしまうと咀嚼などの刺激を受けずに骨の量が減って行ってしまいます。歯を支える骨が減ることの影響は、抜け落ちた箇所だけではなく隣接する歯にも及ぶため、インプラント治療のためだけでなく、お口全体の歯の安定を考えるととても重要な処置と言えます。
骨を増やす場合
GBR
骨の再生を促す骨補填材を使用し、インプラント埋入に必要な骨の厚みや深さを確保する方法です。骨の足りない箇所に骨補填材を充填し、人工膜で覆い骨の形を形成します。処置後しばらくすると人工膜の内側で骨が再生させ、インプラントが安定するだけの骨が作られます。再生する骨の量にもよりますが、インプラント手術と同時に行える場合もあります。
サイナスリフト
上あごの頬骨の内側には大きな空洞があり、奥歯の土台となる骨と接しています。この空洞が奥歯側に広がると奥歯の土台が薄くなり、インプラント埋入に必要な厚みが確保できなくなります。サイナスリフトでは、上あごの側面から骨造成を行い、インプラント埋入に必要な骨の厚みを作ります。
ソケットリフト
サイナスリフトと同じく、上あごの奥歯の骨を補うための骨造成ですが、比較的厚みがある場合はソケットリフトの処置を行います。ソケットリフトでは、サイナスリフトのように上あご側面からではなく、インプラントを埋入する顎の方から骨造成を行うので、外科処置の傷は少なく済みます。
スプリットクレスト
薄くなった骨を割くようにして幅を広げ、その隙間にインプラントを埋入する方法です。骨に負担がかかる方法なので、処置により骨を破折させないよう慎重かつ十分な経験と技術を持って処置を行う必要があります。
骨以外にも歯周組織を補う場合
FGG(遊離歯肉移植術)
十分な歯肉が無い場合、歯ブラシの刺激で痛みを生じやすくなります。痛みなどで清掃がしずらくなることで感染しやすくなり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。そこで、歯やインプラントの周囲に、別の場所から硬い歯ぐきを上皮ごと移植して歯肉を作る手術を行います。
CTG(結合組織移植術)
歯ぐきが薄い場合、インプラントを埋入すると根本が露出してしまします。この場合、歯肉の内側の角化していない部分を移植し、歯ぐきのふくらみを増やします。
APF(歯肉弁根尖側移動術)
歯肉が狭い場合や、深い歯周ポケットがある場合に、歯肉を維持または形成、増加させたり、歯周ポケットの除去を行います。
病気や生活習慣が原因で断られた方へ
全身疾患などがある場合、インプラント治療を行う上でリスクとなる場合があります。疾患によっては、インプラント治療の埋入手術に対する大きな負担となったり、術後の経過が順調にいかず感染症などのリスクを高める恐れがあります。また、重度歯周病の場合には、まずはしっかり歯周病治療を行うことや、ダメージを受けた歯周組織の再生治療を行う必要があります。疾患の状態に合わせて適切に対応することでインプラント治療が可能となるケースがございます。
糖尿病をお持ちの方
血液循環が悪化していると、傷が治りにくかったり、免疫力が低下して感染しやすくなります。インプラント治療では、術部の治癒に時間がかかるとその分感染リスクが高くなり、またインプラントが骨となかなか結合せず場合によっては抜け落ちてしまうこともあります。主治医の指示のもと、血糖値のコントロールなど適切に糖尿病治療を行っていればインプラント治療は可能です。
高血圧をお持ちの方
高血圧の場合には、適切に治療が行われていない方の場合、インプラントの治療中に脳出血や脳梗塞などの合併症を引き起こすおそれがあります。事前にしっかりと確認は必要ですが、主治医の指示を守り、薬を服用されている場合は、インプラント治療が可能ですのでご相談下さい。
心臓病をお持ちの方
主治医の許可のもとインプラント治療を行うことが可能です。心筋梗塞、狭心症の方の場合は、特に直近の発作の起こり方によっては慎重な判断が必要です。僧帽弁置換術を受けた方、ペースメーカーを入れている方は、インプラント治療のように出血を伴う処置を行う際には、感染症のリスクを考え、主治医とともに慎重な判断が求められます。
骨粗しょう症の方
骨の状態に問題が無かったり、骨造成を行うことでインプラント治療を行うことは可能です。ただし、骨粗しょう症の治療薬の中でもビスフォスフォネート系の薬を服用されている方は、服用の休止や主治医の判断が必要です。ビスフォスフォネート系薬の服用中は、抜歯や口腔内の不衛生などで顎の骨が炎症を起こしたり壊死するなどの副作用があります。
重度歯周病の方
歯周病で歯を失った場合、感染した組織の徹底的な洗浄や除去が必要です。また歯肉や歯槽骨などの組織が退縮するなどのダメージを受けている場合、インプラント治療と並行して、歯周組織の再生治療を行う必要も考えられます。